意外と知られていない大学(研究室)のパワハラ

2013年6月27日、「第2回 ブラック企業大賞2013 ノミネート企業 発表!」で、ワタミフードサービス株式会社、株式会社クロスカンパニー、株式会社ベネッセコーポレーション、株式会社サン・チャレンジ(ステーキのくいしんぼ)、株式会社 王将フードサービス(餃子の王将)、西濃運輸株式会社、株式会社東急ハンズがあげられていますが、8つ目に記載されていたのは、企業ではなく、東北大学

東北大学

記事によると、2007年と2012年に職員が自殺しているようですね。2000年以降、大学でのアカデミックハラスメントが問題視されてきましたが、まったく解決されていないようですね。

特に、一人目の以下の記述は見過ごせません。実験に従事する職員の健康がないがしろにされている実情がうかがえます。

生殖機能異常などの副作用がある抗がん剤の実験に従事。排気も十分にできない環境で、ほぼ一人だけでの実験を強いられ、友人達に「もう子どもはできない」と漏らしていたという。このような環境にもかかわらず指導教授は、「仕事が遅い。他の子を採用すれば良かった」などと男性を叱責。

そこで、今回は、東北大学と私の体験から見えてくる、意外と知られていない研究室のパワハラ例を3点ご紹介いたします!

なお、産学官癒着が疑われる研究者の一例は、長くなってきたためコチラに移動いたしました。

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1.ボスに嫌われたら研究室は牢獄と化す

研究業界は、いち研究室単位で活動することが多いため、その世界は意外と狭く、つき合うメンバーも固定的になりがちです。

特に大学では、教授-准教授-助手というような縦割り構造が強く、「教授の指示に従えないなら他の研究室に移る」という暗黙の了解もあります。

東北大学のひとつめの例でも、「仕事が遅い。他の子を採用すれば良かった」とボスに言われた事などから、ボス嫌われ、研究室に残りたいなら否応なしに負荷を増やす、という悲惨な状況がうかがえます。

また、教授いち個人のパワハラではなく、研究グループ単位でのパワハラもあります。

例えば、研究グループから阻害されると、自らの研究内容は情報開示を執拗に要求され、一方的なダメ出しをされる一方で、研究グループが行う研究内容は一切伝えられず、当然意見も求められないといった事例もあります。

また、セクハラ問題も大学内ではよく起こっています。「単位が欲しければ触らせろ」とかですね^^;

日体大元准教授を書類送検 卒論指導でセクハラ容疑

(北海道新聞・2013/7/25)

川崎市のカラオケ店で卒業論文指導の女子学生にセクハラしたとして、川崎署は25日、暴行容疑で日本体育大体育学部の元准教授の男性(61)=東京都墨田区=を書類送検した。悪質として起訴を求める意見を付けた。

このような大学の研究室内のハラスメントは、これまではあまり注目されてきませんでしたが、今回の「ブラック企業大賞2013」に東北大学がノミネートされた事で、大学のハラスメントにも少しずつメスが入っていくでしょう。

対策

パワハラ・セクハラ被害者としての対策としては、ブラック企業対策と同様、「戦うか・逃げるか」ですね!

幸い、大学の研究職は、企業よりも移籍しやすい環境にあると、個人的には感じています。自分を磨くために、あえて母校以外の大学にマスター(修士)やドクター(博士)として進学する事もあります。教授も、ソリが合わない人が居なくなると思えば、推薦文のひとつくらいは意外とすんなり書いてくれますよ♪

また、たとえ研究グループからハブられていても、自分の研究の糧となりそうな情報は取りにいきましょう。一方的な質問をされても、回答だけで終わるのではなく、「私はこのような理由からこう考えますが、あなたはどうでしょうか?」など、相手にも質問を投げかけます。コツは、大勢の前で行う事。下手な対応をしにくい場(こちらの質問を無視したりすると、相手の品性が疑われるような場)で、タイミングよく行いましょう!

2.業績評価が個人主義で、メンバーが足を引っ張り合う

研究者の評価方法としてよく用いられるのは、論文の「ファーストオーサー(第一著者)」と、論文が掲載された雑誌の「インパクトファクター」です。

論文の所有権を持てる「ファーストオーサー(第一著者)」はひとつの論文にひとりだけで、業績評価にファーストオーサーとして書いた論文の数を採用する組織もあります。

インパクトファクターは、研究雑誌の影響力をあらわす数値で、値が大きいほど影響力が大きい事を表します。

この2つの指標は、「ドクターの称号を得るためには、インパクトファクター○以上の雑誌に、ファーストオーサーとして○報以上の論文が掲載される必要がある」というように用いられたりします。

研究人生が長い研究者は、特許の本数が評価されたりもしますね。

このように、一般的に用いられている業績評価が個人主義であるためか、「アイツより先に成果を出す!」というライバルより一歩先んじたいという欲求が強くでてしまい、同じ研究室内のメンバーで、しばしば足の引っ張り合いが起こります。

このような研究室では、情報共有がなされず、実験ノウハウや失敗のリカバリ方法がメンバー間で伝授されません。そのため、毎年教授が直接学生に実験の手ほどきを行うなど、運営が非効率的になり、得られる業績も少しずつ減っていきます。

一部のメンバーの負荷が増えたり、ボスの知らない所で部下が不正を働く事もあります。以下の例では、部下同士を競わせる事が不正を生んだと推測されています。

東大論文不正:元教授、研究者同士競わせる

(毎日新聞・2013/7/25)

大学の調査委員会が「撤回が妥当」と判断した論文は16年間で計43本と、加藤氏が在職中に発表した全論文の4分の1に上る。加藤氏自身は不正の指示や関与を否定しているが、世界的研究者の前代未聞の不正を生んだ背景には、メンバーを複数の小グループに分け、有名科学誌への発表成果を競わせる研究室の運営手法があったとみられる。

また、「准教授になるために、今の研究で成果を!」というような、出世のために好ましい結果を得たいという願望も働きます。特に、共同研究では、「今年度の研究で良い成果が得られたら、来年度の研究もヨロシクね」という暗黙の了解があったりすることから、この傾向は特に強くなります。そのため、部下には「来年度の予算獲得のために、何とかして良い結果を出せ!」というような指示が出たりします。良い結果が出る事を前提にして研究しているというワケですね。もちろん、大学に限った事ではありません;;

掲載論文や出願特許の件数は、出世はもちろん、共同研究先の獲得や科研費の取得などにも影響を与えることから、研究結果の捏造も後を絶ちません。

対策

いち研究室メンバーとしての対策は、どんなに劣悪な研究室でも、研究の記録は必ずつけましょう! 不足の事態が起こっても、シッカリした記録があればリカバリも早いです。東北大学のように、天災で大ダメージを受ける事もありますし;;

また、もし可能なら、貴重なサンプルやアブナイ試薬は、鍵をかけて管理しましょう。

そして、メンバー間の争いには加わらず、愚痴を聞く程度にとどめておくと良いでしょう。

3.文献を自由に検索できない

文献は、言わば研究職のネタの宝庫。昔は各大学に文献検索パソコンが設置されていましたが、今はネットで検索できますね。便利な時代になったものです!

ところが、ネットによる文献検索や文献閲覧サービスの多くは有料で、「経費削減」という名目で有料文献の検索や閲覧が制限されている機関の話もチラホラ耳にします。

一番タチが悪いのは、IPアドレス登録制で、検索あるいは取り寄せした分だけ料金が請求される従量課金制。職員の利用額がダイレクトに分かるため、「お前、こんなに文献取り寄せてるのに何も成果出てないじゃないか!」というハラスメントが行いやすくなります。

ここまでにはならなくても、日頃から欠点探しやダメ出しがまかりとおっている機関では、「イチャモンつけられたら厄介だから、文献の検索や取り寄せを減らそう」という心理が働きます。

その結果、文献に触れる機会が減り、「研究の引き出し」が少なくなっていく事は、言うまでもありません。

対策

興味のある研究者にダイレクトに連絡を取り、文献をもらったり議論するというワザがオススメ!

興味のある研究者が分からない場合は、国会図書館の検索サービス(無料)や、学術集会、業界誌でリサーチすると良いでしょう。

研究者を見つけたら、臆せず連絡してみましょう^^
相手もお忙しいでしょうから、100%の返事は期待してはいけませんが、私の感覚では、思ったより返事がありますよ♪

ただし、研究室のボスを通さずに外部の教授に直接連絡を取ると、後でウルサく言われる可能性がありますので、事前にボスに一報入れる事をオススメします。

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「第2回 ブラック企業大賞2013」の気になる途中経過ですが、7/24昼現在の途中経過は、以下のようになっています。

ブラック企業大賞2013 アンケート途中経過

東北大学は、なんと2位! 
投票コメントの一部は以下。東北大学そのものはもちろん、大学のあり方にも一石を投じる内容もあります。

東北大学の問題点を指摘する声
  • 昨年まで研究員として働いてましたが、教授、スタッフ、学生によるパワハラ、モラハラにより退職することになったためここに一票。
  • 研究倫理がひどい。総長が論文二重投稿しても開き直り
  • 誰か教授たちの横暴を止めてください。「社会に出たら理不尽なことはいくらでも…」とかそういう説教はいらないです。こんなことが社会で認められていいわけがないです。
  • 自殺させた教授と関連のあるセクハラ職員もやめさせられずに居残れるこの大学はもはや異常。
  • 残念ながら東北大学はハラスメントが横行しているにも関わらず、形だけの対策しかやらず現実的には無策。ハラスメントをやっている教授は反省するどころか報復行為を続けるものすらいる。新教員制度以降は全ての教員が対等なんて嘘ばかり。
大学そのものの問題点を指摘する声
  • 揉み消しを逃れられた氷山の一角。東北大学に限った話ではない。
  • 東北大以外にもひどい旧帝大はあります。助手を自殺に追いやった教授が平然と在籍している大学に国税を投資する価値はあるのでしょうか。教授も全柔連のように記者会見をし、罪を償ってほしいです。
  • 大学は治外法権ではない。持続的な社会の監視の目を持たせるためにも、大々的に報じてほしい

2013/8/11にブラック企業大賞が発表されました!

ブラック企業大賞2013

結果は、途中経過でぶっちぎりだったワタミが1位でしたね!
ただ、東北大学の2位も維持され、特別賞を受賞したようです。
詳細は後日UPされるとの事ですので、気になる方は公式サイトをチェックしてみてはいかがでしょうか^^

haniwaのヒトコト

2013/7/25には、大学の不正がなんと計4件も報道されました。日体大のセクハラ、東大の研究費詐欺、東大の論文捏造、弘前大の恐喝ですね。いやはや、ブラック大学の破壊力は、ブラック企業以上かもしれませんね><

2013年に報道された、ノーベル賞候補者の論文捏造事件でも、東北大学は「不正の根拠がない」と正式に調査していないようですね。

東北大学の全てがブラックではないとは思いますが、今回のアンケートが、ブラック大学の実態が暴かれ、改善されるキッカケになることを切に願っています。

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