テレビで聞いた「スクールカースト」という言葉が気になり、本書を手にとりました。
「スクールカースト」とは、主に中学・高校のクラス内で発生するヒエラルキーのことです。同学年の子どもたちが、集団の中で、お互いがお互いを値踏みし、ランク付けすることで、それがいじめや不登校の原因となるともされています。本書は「いじめ」とはあえて分けて述べられていますが、密接にリンクするであろうことは本書の端々から感じ取れます。
(今回は色々なページに書かれている内容を引用・要約していますので、ページ数の表記は割愛いたします。)
「スクールカースト」の特徴
上位グループの特徴
- 生徒の特徴は「にぎやか」「気が強い」「異性の評価が高い」「若者文化へのコミットメントが高い」など。
- さまざまな特権が与えられ、さらにそれを行使する義務がある(「自分の意見を押し通す」など)。
- 「地位の差」をコントロールする人事権がある。
下位グループの特徴
- 生徒には特徴がない。しいていえば「地味」「目立たない」。
- グループ単位で行動できるときはよいが、全体で行動しなければならないときに思うようにならないことがある。
- クラスでグループに所属していない生徒は、下位のグループからも見下される。
両グループの関係
- 上位のグループから下位のグループへの関わりが繰り返しある場合に、「地位の差」は顕在化する。
- 上位のグループは「結束力」があり、クラスに「影響力」があるため、下位のグループは彼らに「恐怖心」を抱く。
- 下位に位置づけられるグループは、上位に位置づけられるグループから、「理不尽」だけど、「いじめではない」行為で、さまざまな被害を受ける。また、それらのほとんどは「お決まりのパターン」として行われ、日によって力関係の逆転が起こることはまずない。
- 地位は固定的で努力では変えられない
このようなグループ分けをする光景は私の学生時代でも見られましたね! 特に女子で顕著です。
「スクールカースト」における上位・下位は、成績(進学)重視やスポーツ重視、職能重視など、学校の属性や校風によりかなり変わってくると思われますが、本書はあくまで「スクールカースト」研究のパイロットスタディですので、そこまで突っ込んだ事は書かれていません。より詳細な研究はこれからなのでしょうね。
「スクールカースト」に対する教師の考え
- 上位の生徒と下位の生徒が同じことをしたとしても、反応が違う(「スクールカースト」のポジションによって、注意する内容に差がある)。
- 「スクールカースト」を「能力」による序列だと見ていたり、肯定的に捉えている。「努力」や「やる気」で改善可能なものだと認識している。
- 「スクールカースト」上位の生徒を、「人間関係をうまく作り上げる」能力の高い生徒であると認識し、そうした生徒を積極的に評価する傾向にある一方で、「スクールカースト」下位の生徒は、「人間関係をうまく構築する」能力や、「コミュニケーション能力」が欠如している生徒であるととらえている。
著者のインタビューに応じた教師は、生徒への対応が「スクールカースト」における地位により変わること、つまり生徒への差別を自ら肯定しています。また、先の「両グループの関係」でも書いた、インタビューに応じた生徒は「スクールカースト」を「地位は固定的で努力では変えられない」ととらえているにもかかわらず、教師は「「努力」や「やる気」で改善可能なものだと認識」しています。
これらのことから、生徒と教師(学校)の間には、差別はいけないという指導と差別をしている現実の矛盾や、「スクールカースト」への認識のズレが生じていることが分かります。
これは、あくまで著者のインタビューに答えて書籍への掲載も許可した教師の考えですので、教師が皆このような考えを持っているとは思いません。
しかし、本書のあとがきでは、次のようにも書かれていました。
本書には収録できませんでしたが、「スクールカースト」に問題意識を持っていて、積極的に解体しようとしている先生もいました。そしてそれは「学校側からすると望ましくないことなのかもしれない」とおっしゃっていました。
(p289)
つまり、学校が望ましいとしている考え方を持つ教師だからこそ、学校での立場も保障され、インタビュー内容を本書に掲載できたのかもしれません。
教師(学校)の自己矛盾と、教師と生徒の間の認識のズレにより、教師が生徒に誤った評価を下したり、クラスで起こる問題が増長されることは言うまでもありません。
そのため著者は、次の対策部分で、教師は慎重な対応をするよう、注意を投げかけています。
「スクールカースト」への対策
生徒の対策
- 状況を受け入れて、期間限定で自分の感情をコントロールする。
- 学校とは違う評価をする場所にも行ってみる。
- 人の集まるところに行きたくないなら、どこにも行かない。
教師の対策
- 学級集団の中であるように見える「能力」(「生きる力」や「コミュニケーション能力」など)だけで児童や生徒を評価しない。(測ることが難しい「○○力」は、先生方が評価することにより、彼ら(生徒)にとっては確かに形があるものとして受け取られてしまう可能性があるため)
保護者の対策
- 子どもが学校に行きたくないなら無理に行かせない。
- 学校に行きたくない理由も問いたださない。(人間関係の問題は非常に複雑なため、今起こっている状況を子ども自身もうまく説明できないことが多いため)
- 「学校に行くのが普通」という考え方を捨てる。
生徒の問題の解決には、生徒本人や保護者側の対応が求められることが多いなか、教師の評価方法にも疑問を投げかけた点は評価できます。
しかし、その内容の全てが、学歴が重視される社会では実行が極めて難しい「逃げ」に徹していて、クラス内で戦ったり改善したりする方向での提言はみられなかった点は残念です。
ただ、面と向かって戦う事ができるならば、「スクールカースト」が及ぼす負の影響も小さくなり、深刻に悩んでいないとも考えられますので、戦う方の対策はあえて述べられていないのかもしれません。
ひとつ気になった点は、教師に求められている評価の項目です。私が学生だった頃は勉強科目に対する評価のウエイトが大きく、素行や「○○力」については「おしゃべりが多い」など1,2行でアッサリ書く程度でしたが、今は、はかることが難しい「○○力」も評価しなければならないのでしょうか。
評価の項目に「○○力」が多くなってきた理由を2点推測すると、ひとつは成績重視の評価に批判が出たため成績以外の部分も評価するよう求められたこと、もうひとつは就職活動で重視される能力が「コミュニケーション能力」であることがあります。
もし後者の理由が大きいならば、就職活動で求める能力を見直さないと、「○○力」による評価は無くなりません。つまり、「スクールカースト」の問題は、社会と密接にリンクしているのです。
本書には生徒、教師、保護者の体策しか書かれていませんが、4つ目の体策として「社会」があると、「スクールカースト」についての考えや、それが及ぼす影響力についての理解が、より深まったのではないでしょうか。
解説者の文章には、社会との関わりも提起されていました。以下に私が重要だと感じた部分を引用いたします。
「教室内カースト」解説
- 「スクールカースト」は、他者を隠微におとしめるコミュニケーションのあり方が、グループ単位で、ある程度固定化されたものであると考えることができます。それゆえに、その問題や解消は困難になるのです。
- 「いじめ」の培地である「スクールカースト」の維持に教師が加担してしまっているという本書の指摘は、この問題の根の深さを改めて示してくれるものです。
- 「スクールカースト」が顕在化するのが教室内であるとしても、自分(たち)の押しの強さや有利な立場をよいことに、他者に敬意を払わず押しつぶすようなふるまいは、日本社会のいたるところに見られるものであり、そのようなより広い社会的な素地をももっと踏み込んで問う必要があるのではないか。
- みなさんも、誰かにさげすまれたり踏みにじられたりすることなく、尊厳をもって生きたいという気持は持っているでしょう。
それが実現できていないならば、どうすれば少しずつでも、より「ましな」ほうに近づいてゆけるのかを、真剣に考えていただけると嬉しいです。(p296-307・強調はhaniwaによる)
本書の最後に掲載されている解説文章は、本書の主張がコンパクトにまとまっています。特に、教師の問題を指摘している点や、「スクールカースト」を学校の問題で終わらせず、日本社会の問題として提起している点は共感できます。
私も、集団のなかで下位に位置づけられた者を虐げたり、虐げられてもじっと耐えたり、その様子を仲裁せずに傍観する態度は、「スクールカースト」などとして既に学校で作られており、これがブラック企業や職場ハラスメント、さらには福島産食材や生活保護受給者、引きこもりなどへの過剰なバッシングがはびこる素地になっていると考えています。
就職活動で技能よりコミュニケーションが重視されている点も、カースト下位の立場に耐える事や、要領よく立ち回る事が求められていることの表れではないでしょうか。そして、それが良しとされているからこそ、技能ではなくコミュニケーション能力を重視することを堂々と表明でき、一方的で理不尽ななハラスメントを受けても「被害者にも原因がある」と主張できる構造になっているように思います。
学校でのいじめ、職場でのパワハラ、社会的弱者(と言っては失礼ですが)への過剰な差別。これらは一見別々の問題のように見えますが、意識の部分はリンクしているといえます。
私は個人的に、学校や職場での下位者は理不尽な事に耐えすぎだと思っています。イジメをはじめとした差別は、無くすのではなく、起こるものです。そのため、それらの対策も、逃げるだけではなく戦う必要もあると思っています。また、一度明確に対立した後では難しいかもしれませんが、対話という選択肢も覚えておきたいところです。
haniwaのヒトコト
「カースト」という表現が気になり読んでみましたが、本書の内容は私が学生の時にもみられた事なので、タイトルはやや釣り気味かもしれませんね^^; しかし、「スクールカースト」の研究ははじまったばかりですので、現状のピンポイント把握と問題提起として興味深く読めました。今後の研究の成果に期待したいですね!
(あと、序盤でマンガを多数引用している点は妙になごめました^^)